堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材15 管理職としての3つの実践

題材15 管理職としての3つの実践

美術家教育学会通信 NO.34 ,1999年9月30日発行「Mail Box」コーナーに発表した「管理職としての3つの実践」に写真を加えました。

⒈ はじめに
 公立中学校に30年間(教頭5年)勤務し現在、小学校長2年目である。教諭の時代は、現代美術をよさを生かした創意ある美術教育を求めて、題材開発とその実践を研究テーマとしてきた。
 管理職と教諭とは役割が根本的に違う。教頭の期間で美術科を担当できたのは1年間のみであった。また、校長は法令のとおり所属職員の指導や監督はできるが、子供への直接的な授業は本務ではない。
 そこで、校長になって考えて経営方針により環境構成を重視することにした。校舎美化及び掲示活動の活性化と充実を目指し、自ら率先垂範し、もって図工・美術のよさを生かした学校づくりとしてきた。
 その他、図工科の授業にTTの立場で協力したり、教員養成実地指導や校内外の職員研修の講師として自論を展開し、図工・美術教育の振興に努めてきている。今回、本学会通信への寄稿の機会を与えていただき、管理職としての6年半の歩みの中から図工・美術の領域に位置付く実践を3つ報告したい。
⒉ 3つの実践
 ⑴ 「聖火台づくり」
ア はじめに
 新潟県では、7年前より学校の活性化を目指し、3年単位の「スクールプロジェクト事業」を展開している。学校規模に応じて予算が配当される。12学級で約100万円。その予
算をもとにした手作り備品として「聖火台づくり」に取り組んだ。

イ ねらい
 オリンピックの「聖火」、国体の「炬火」と同じ意味文脈にある「火」を体育祭・運動会で燃やし続けることにより年間で最大の学校行事、児童・生徒会行事の活性化を図る。ウ 制作のポイント
 バーナーは市販の中華料理用の強力なものを利用する。台の高さ250cm程度、ワイン
グラス型の鋼鉄製で5~6名の児童生徒で移動が可能な重さとする。予算は約20万円。設計し、施工は地元の鉄工所にお願いした。
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エ 考察
 これまで、松代中、板倉中そして現任校で3基の制作を担当した。
 燃料はプロパンガスで1日中燃やし続けて10kgのボンベがほぼ終わる。その費用は約5000円程度である。年に1回だけの使用のためにぜいたくな感もあるが、炎々と燃え続ける火の芸術の教育的、演出的、象徴的な意味作用は強力で感動そのものである。
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」 ⑵ 「校内ギャラリーの運営」
ア はじめに
 校舎内には作品展示にふさわしい壁面や空間が必ずあり、ギャラリーとしての活用が可能である。新指導要領でも、校内の適切な場所に作品を展示するなどして、平素の学校生活においてそれを鑑賞できるものとするとある。余裕教室の活用と相俟ってギャラリーの設置と実質ある運営が今日的課題である。
イ ねらい
 校長室前の廊下や玄関付近の壁面及び出窓部分を作品展示の校内ギャラリーとして活用し、情操教育、美術鑑賞学習の一助とする。
ウ 運営の方法
 ①子供の作品展
 ②職員や保護者の作品展
 ③地域の方々の個展やグループ展
 ④県内外の著名な作家の作品展
エ 考察
 板倉中と本校で設置してきた。板倉中では国際的な旅行家で写真の山崎慎治氏、七宝焼山本正男氏、水墨画の笹川春艸氏、洋画の小関育也氏、そして私の個展も行なった。いずれも2週間以上の長期の展示で、子供にとって本物に触れる貴重な機会となった。
 本校では昨年の10月に設置し、鉄の彫刻の霜鳥健二氏の個展の実績がある。
t-02.jpg現在は6年の共同制作の立体作品を展示している。今後10月の文化祭に合わせて地域の方々の作品展を行なうように計画を進めている。
 地域の美術館や文化財などの積極的な利用もうたわれているが、ほとんどの学校で交通手段がネックとなっている。そのために校内に適切な鑑賞作品の展示できる美術館などに近似する場所をつくり出す必要がある。
 また、既に多くの学校での実例があるが、本校のような校内ギャラリーは運営の工夫で学校を開く有効な手立ての一つとなる。

⑶ MIE(Mascot In Education)の試み
ア はじめに
 私自身親となって、子育ての過程でぬいぐるみのウシやゴジラなどを買い与えた経験はある。その頃は、ぬいぐるみや玩具の意味作用や教育的な効果について真剣に考えることはなかった。昨年の文化祭のバザーに売りに出されたカエルのぬいぐるみを手に入れたことを契機に考えが進み、その類を沢山コレクトすることとなった。現在、私の校長室には大小さまざまな30体以上のぬいぐるみ及びキャラクター玩具が同居している。
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イ ねらい
 ことば遊びや連想をもとに、学校の教育目標などをマスコット化し、子供の心の居場所学び、遊び、癒しの一助とする。
ウ 試みの実際
 昨年度までの教育目標は「考える、助け合う、頑張り抜く」であった。まず最初の試みはカエルのぬいぐるみによる「カエル←→考える」の常識的意味設定であった。続いてゾウを手に入れて「助け合う←→助け合うゾウ」とこじつけてマスコットとした。その2つをギャラリーに展示したら子供たちに人気抜群。それは子供たちと私との懸橋となり、そこは、子供たちの新しい遊び場所となった。 その後、新年を迎え干支のウサギのぬいぐるみと「二兎を追わず」「うさぎ耳」「ウサギの登り坂」や「ウサギとカメ」などの諺や昔話に対応させて展示した。「頑張り抜く」は渡り鳥の雁に着目したがマスコット化は実現しなかった。
 昨年12月に新指導要領が発表になり、教育課程総体の見直しが焦眉の課題となった。今年度、新指導要領の方向に鑑み、教育目標の部分改定を行なった。新教育目標を「考える、思いやる、積み上げる」とした。
 考えるは継続し、思いやるはゾウを転用し「思いやる←→思いやるゾウ」とした。
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 「積み上げる」についてはマスコット化から思考モデルそのものとなった。「積み上げる」でイメージしたのはもちろん積み木。お古の積み木と算数の面積や体積の指導で使う立方体や三角柱などを掻き集め、また印刷用ロール巻き原紙の芯の紙パイプを切った円柱などを大小混ぜて置いてみた。そこは即刻、学年を超えた遊びの場所となった。積み上げては崩すという、子供の創造と破壊の小世界が余念なく繰り返されている。
エ 考察
 カエルやゾウのマスコットから始まり、トトロなどのキャラクターや積み木をギャラリーに常設的に展示して一年から半年近く経過した。この間の子供たちの反応、とりわけ仲間遊びの生成を見取る中で、それらが低学年はもとより高学年の大半にとっても教育的に有効であることを実感した。今後ともこの実感を大切に子供の目線に立ち、その心を読み取り、寄り添い、育んでいきたい。
 ところで、マスコットやキャラクターは図工・美術(造形)の領域で生み出されるものである。その意味でMIEなる造語を提案し一般化を図りたい。
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⒊ おわりに
 以上のとおり、現在、校長室とギャラリーが私の日常的なフィールドとなっている。子供たちを子供たちとして受容し、ふれあう日々に心洗われる発見があり、思索のための素材がある。そこでは良寛と手毬の世界に想いを馳せたり、フレーベルの恩物について改めて得心したりしている。