堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材14 校庭の桜に学ぶ(総合学習へのアプローチ)

題材14 校庭の桜に学ぶ(総合学習へのアプローチ)

 総合学習へのアプローチ(T小で実践)

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(1) 単元名
  「校庭の桜に学ぶ」(小6学年)

(2) 単元のねらい

ア 校章のデザインの元である桜の花や桜の木と私たちの生活とのさまざまな結びつきについて考   え、桜に寄せる日本人の共通の心を感受する。
イ 開花から落葉までの桜の姿を観察し続け、季節によって移り変わる自然の営みについて知識を増  やす。
 ウ 桜の持つ食材や造形材、染材などの可能性を追求する。

(3) 単元設定の意図

ア 桜のもつ意味
 桜は、季節を愛でる春の花見の代表であり、日本人にとって最も愛され、親しみのある花木である。そして、桜は本居宣長の「敷島の 大和心を 人問わば 朝日に匂う 山桜花」とあるように日本人の心のモデルとされ、国花となっている。
 教育との関わりにおいても、四季の区別のはっきりとした一年の中で、桜の開花と入学の時期が同じに設定されており、始まり、はなやかさ、いさぎよさ、発展へのシンボルとして意味化されている。
 桜の花はその美しさ、華やかさを俳句、短歌、詩に詠まれ、絵に描かれ、デザインの元とされまた、その花木は飲食の材料や薬用、建築や造形の材料として様々な分野で利用されている。このような桜のもつ意味の広がりの中で、多様な学習や表現が成立する。
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イ、子供の実態と教師の願い
 私たちの身のまわりの対象は、人間のはたらきかけに応じてその存在の意味が違ってくる。身の周りの対象を学習の対象、魅力あるものにしていくことは一重に教師の創意にかかり、またそのような対象の開発は教師の願いであり、児童の生きる力の育成に結実するものである。
 本単元は、桜の開花のはなやかさを愛でるという一般的な関わりから始めて、多様な視点により見付けた課題を追求したり、他の学習領域をクロスさせたりして多様な学習や表現活動を仕組んでいく。
 実体験に乏しさがますます進行している児童の実態を踏まえ、校庭の桜という身近でかつ深遠な世界をもつ対象とのかかわりの中から様々な視点を設けてイメージ・発想を広げ学習や表現への意欲付けをまず図りたい。追求と展開、収束と拡散の学習過程を基本的モデルとし児童と共に、感じ、考え、学習を成立させていきたい。

ウ、新学習指導要領の意味するもの
 校庭の桜にかかわることで本校の創意工夫による特色ある教育活動が可能である。まず最初は、卒業式に小枝を切って促成的に桜の花を咲かすことに着目し、桜の花を愛でる、飾ることから枝、樹皮花弁、葉など捨てるところのない素材としての可能性やことば・意味世界の広がり挑戦していきたい。
 地域や学校の特色から学習を始めさせ、児童の興味・関心を徐々に掘り起こし、横断的・総合的な課題追求、探求活動に誘っていきたい。
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(4) 単元の構造

基本的な学習の場面 学習の視点・学習及び表現課題生成の視点 学習方法・分野・培う力

1 桜の花を見る
① 桜の花の匂いの感受、桜の歌をうたう
②桜の花をの形、色、花序を描く
③ 桜の花見、花見会食、桜に酔う。
④ 花の美を丸ごと味わう。桜吹雪に会う 全身感覚
歌唱力
描画力
観察力

2 桜の枝木でつくる
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① 桜の枝木を切る。
② 桜の枝木を削る。樹皮を剥ぐ。
③ 桜の白木を曲げる。
④ 桜の枝の白木を組合せる。 刃物と巧みな手
発想力 構想力
造形力 構成力
表現力

3 桜の樹皮を活かす
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① 桜の樹皮を嗅ぐ。 
② 桜の樹皮を乾かす。
③ 桜の樹皮を煮出す。
④ 桜の樹皮で染める。
⑤ 自然に還す
⑥ 樹皮を燃やす
衣生活と染色
染色技法
染色知識

4 桜の花弁の活用
① 花をちぎる。花を盗る。花を噛む。
② 花弁を愛でる。押し花。
③ 花弁を嗅ぐ。乾燥しポプリを作る。
④ 花を味わう。
桜湯をのむ、花弁の秩序、飲食の智恵、匂いの文化、味、香りの文化、五感を使う
5 桜の葉を活かす
① 桜の葉を採集する。押し葉をつくる。
② 桜の葉の匂いを知る。桜餅を食べる
③ 桜の葉で茶をつくる。桜の葉の乾燥。
④ 桜の葉で染める。 食物の発見
染色学習
葉の機能
葉の成分
6 桜の木とあそぶ
① 桜の木に触る。つかまる。
② 桜の木にぶらさがって遊ぶ。
③ 昇って遊ぶ。木から降りる。 遊ぶ、上る、共に過ごす、語る集う、触れ合う
④ 枝に腰掛け、眺める。
⑤ 桜の樹上や木陰で時を過ごす。感じる、触る

7 植物としての桜の
 木を知る
① 校庭の桜の一年観察
② 校庭の桜の一月観察
③ 校庭の桜の一週観察
④ 校庭の桜の一日または一時間観察。共感する
見付けだす、感受する、 記録する、記述する

8 ことばと意味の世界での桜を知る
① さくら・サクラ・桜の意味。
② 植物図鑑の中での桜。
③ ことわざの中での桜。
④ 俳句、短歌、詩や文学の中の桜。 文献を調べる
検索する、列挙する、分類する

⑸ 小単元(題材)とその実践

題材1 桜を愛でる(時数1)
ねらい 卒業式や入学式の促成で咲かせた桜の美しさを鑑賞し、感想を書く。
支援のポイント ・個に応じて、表現方法を選ばせる。
・自分の心を表すことばを見付けださせる。
  学習や追求の方法 (・俳句、短歌、定型詩散文詩、随筆、感想文など)
・リングファイルに綴る
評価の視点(・桜の花の美しさの要素に気づいて表現しているか)
次への発展・関連
・桜を描く・桜満開集会
・促成的な開花と自然な開花との違い
・花見会食

題材2 桜の樹皮を剥ぐ(時数2)
ねらい 小刀などの刃物を使って花の散った、桜の枝木の皮と幹を剥いで分け、素材を作り出す。 支援のポイント ・刃物という道具の大切さと危険さに気付かせる。
・刃物の扱いについて練習させる。
・必要に応じて、手袋などを使用させる。
 学習や追求の方法 ( ・手と刃物を使って剥ぐ、削る、切る)
・白木の美しさに気付かせる。
・小枝の曲がりの美しさに気付かせる。
・生木の匂い、樹皮の匂いに気付かせる。
  評価の視点 (・木膚の美しさに気づいたか)
・後片付けをきちんとできたか。
  次への発展・関連
・木工小物の制作。・飾る・木工オブジェの制作。・使う・生け花に活かす。
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題材3 桜開花を祝う(時数1/4)
ねらい 自然に咲き始めた桜の美しさを全身で感受し、感想を書く。
支援のポイント (・個に応じて、表現方法を選ばせる)
・自分の心を表すことばを見付けださせる。
学習や追求の方法 ・俳句、短歌、定型詩散文詩、随筆、感想文など
・リングファイルに綴る
  評価の視点 (・桜の花の美しさの要素に気づいて表現しているか)
・自然の大きな力、リズムに気付いているか。
 次への発展・関連
・桜を描く・桜満開集会・自然な開花との違い・花見会食

題材4 花見会食(時数1/2)
ねらい 満開の桜、晴天の下で、協力して配膳、準備をし、花を愛でながらの屋外会食を楽しむ。
  支援のポイント ・全員で協力する。・児童自身に計画させる。
・必要に応じて、敷物などを使用させる。
 学習や追求の方法
(・会食後の感想を多様な視点から掘り起こし、他の学習へと発展させたり追求させる)
・桜に寄せる日本人共通の心に気付かせる。
評価の視点(・全員が協力的に取り組んだか)
・後片付けをきちんとできたか。
  次への発展・関連 ・桜を表現している俳句、短歌、詩、小説など

題材5 桜の枝でつくる(時数2)
 ねらい 桜の小枝の白木を使って、仕える小物を作ったり、共同で環境を飾る作品をつくる。
 支援のポイント(・材料を余すことなく、有効に使用させる)
・学級・学年の共同で思い出に残る作品をつくらせる。
・余った小枝を活か方法を工夫させる。
  学習や追求の方法 (・大きめの枝の利用して造形させる)
・飾り、伝達のためのデザインを工夫させる。
・学級・学年共同の集合メッセージ作品をつくる。
 評価の視点 (・桜の枝のよさを活かして造形しているか)
・小刀や刃物、道具を適切に使っているか。
  次への発展・関連 ・環境のデザイン・桜について調べる・飾りのデザイン・伝達のデザイン
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題材6 桜の樹皮で染める(時数2)
 ねらい 桜の樹皮を染料として、紙や布を染めて生活に 役立てる。
 支援のポイント(・牛乳パツクのリサイクルとリンクさせ学習活動を発展させる)
・必要な道具を揃えたり、工夫する。
・必要な小道具を、自作させる。
・染色についての事前の準備を怠りなくしておく。
 学習や追求の方法 (・牛乳パックを回収させることから学習を始める)
・紙パルプの溶液に樹皮の煮汁を入れ染める。
・ハガキや色紙の紙づくりとする。
  評価の視点 (・牛乳パックのリサイクル方法を理解したか)
・方法に従ってきちんと染色できたか。
・協力して準備したり後片付けしたりできたか。
 次への発展・関連
・樹皮による堆肥づくり
・樹皮を燃やす
・ハガキなど作ったものを実際に使う。
・さまざまな分野でのリサイクル活動

 題材7 校章のデザインの 秘密 (時数2)
 ねらい 桜の形を元とした、校章のデザインのよさについて体験的に感じ取る。
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支援のポイント
(・原図に従って、定規とコンパスで書ける、作図のプロセスを順序通りに追体験させる。)
・デザインの原理について児童自身にに気付かせるようにする。
 学習や追求の方法 (・作図の順序をプロセスに応じて図示する)
・順序通りに、正確に追体験させる。
・元の桜の花の形の美しさについて分析させる。
・桜花の形の特徴についてまとめさせる。
評価の視点(・花の形の秩序について気付くことができたか)
・定規やコンパスを適切に使うことができたか。
・シンメトリー(対称)について気付いたか。
 次への発展・関連・国花について・桜の形のシンボル化について
・形と意味の関係について
・伝達のデザイン

題材8 桜は私たちの国花(時数2)
 ねらい 桜が国の花になっている意味を調べてまとめて発表する。
 支援のポイント・桜と日本人との多様で深遠な関係について興味付けて、調べさせる。
  学習や追求の方法(・調べ学習の方法を教える)
 ・図書館や百科辞典などの活用方法を工夫させる。
・インターネットの適切な利用を工夫させる。
・国花を定める意義について考えさせる。
  評価の視点(・自分のテーマを追求できたか)
・調べ学習を計画的にできたか。
・調べたことをきちんとまとめることができたか。
  次への発展・関連 ・さくらを歌ったうたを歌う。・桜湯を飲む・万葉集の中のさくら     ・桜餅を食べる・桜の観察・桜湯の産地を調べる ・桜の花の成分分析