堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材11 学年の共同制作「パズルメッセージ」

題材11 学年の共同制作「パズルメッセージ」

学年の心を一つにする共同制作

1、題材名 「学年パズルメッセージ」
 (7クラス306人と先生方でつくる一つの作品)

2、指導の目標
(ア) パズルゲーム感覚を働かせ 「テトロミノパズル (16ピース正方形型)」の解答の一例を1m×1mの大きさに拡大し、その5種類の単位形の一つに自分の誠意あるメッセージをレタリングしデザインを工夫し楽しく表現する。
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(イ) 各学級でグループを単位にと学級担任、副任の先生が仲間となって作品をつなぎ合わせ、16ピースのパズル型に構成されたグループメッセージを3つ(合計1m×3m)つくり出す。
(ウ) 7クラスのパズル型のメッセージをつなぎ合わせ、学年共同の力で2m×10,5mの一つの作品をつくり出し、作品完成の喜び、所属感、連帯感を味わう。

3、領域、学年、時期、時数、材料、用具等
 デザイン、2年、5~6月、6時、長尺画 用紙、ポスターカラー、のり

4、題材設定の理由
 本学年の実態は、集団意識が希薄で、凝集力や協力性に欠ける行動が目立っている。それらに打ち勝つリーダーシップも規範意識もまだ育っていない。そのような実態を踏まえこの時期の目標「人格をお互いに認め合い、助け合って生活できる仲間づくり」に迫るには、共通の感動体験を通して集団の一員としての所属感を育てることが前提である。
 この所属感を育てるに、ジャンケンやくじ引きのような一つのルールによる平等性、そして一人一役制や輪番制という平等性を基本とすることは有効なことである。
 ところで、現在の生徒の価値観や感性は学校での教育活動以上に、急速に進行する情報化社会の中で直接的にもまれて育まれてきている面が大きい。例えば、現在の中学生は全員が15分刻みのコマーシャルタイムに慣らされてきたテレビ世代である。そして、ほとんどがファミコンゲーム等のテレビゲームに熱中してきた世代である。テレビのチャンネルの選択肢は多くなり、また沢山ソフトを所有してさえいるゲームの虚構の世界の中では、自分が主役となって意外性に満ちたストーリーのもとにで夢中になって遊べるのである。 題材設定に当って、このような生徒世代に特徴的な価値観や感性に訴えることは重要である。
 つまり、現在の中学生の内面・感性に迫る教育をするには、多様な選択肢を与え得る活動や意外な展開性のある活動、一人一人が主役となり得る平等性のある活動を実現させる必要がある。
 以上のような考えから、生徒に共通の興味・関心があり、ゲーム感覚で楽しく安心して取り組める「テトロミノパズル」の原理を応用した「学年パズルメッセージづくり」という題材を開発した。
5、内容分析-省略-

6、指導過程

課題1 学年活動のオリエンテーションと準備。 (1時)
・ 内容、方法の説明 学年集会・5色の紙で5種類の単位形をつくる。
・ 各クラス2~3名、放課後活動   

課題2 共同作品の構想を練る。 (2時)
  ・男女混成で学級を3つのグループに分ける。    
  ・パズルの組み合わせ、表現効果を考える。
  ・一人一人の形(色)、貼る位置を決定する 。(グループ活動)
  ・自分のメッセージとデザインの構想を練る。
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課題3 自分の作品を工夫して仕上げる。(2時)
  ・自分のメッセージを決め、下書きをする。      
  ・配色の効果を考え、美しく彩色する。
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課題4 学級・学年の共同作品を完成させる。(1時)
・一人一人の作品を完成させ、それを貼り合わせグループと学級の作品を完成させる。
・各学級の作品を貼り合わせて学年の作品を完成させ、公共の場所(理科室前の廊下)に展示する。
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課題5 活動の評価と反省をする。(各クラスで)
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7、指導のポイント
(ア) メッセージを考えることで自分自身のあり方を見直させる機会とする。
(イ) パズルとして幾通りもの組み合わせが考えられる。どのパターンを選ぶかを巡る話し合い活動の場で民主的に話し合わせる。
(ウ) 一人一人の作品が主役であり全体を構成する掛け替えのない作品であり、また、7クラスの協力・協働によって一つの作品が完成することの意義を強調する。
8、反省、評価
前例のない作品のため、生徒一人一人にも教師の側にも作品の全体完成像への意外な表現効果や発見への期待があり、意欲の持続は充分であった。306人全員の生徒はパズルの5種類の単位形の一つに自分のメッセージを書き、そしてパズルの解答例の形に張り合わせ、大きなメッセージアラベスクとも言える共同作品をつくったのである。生徒と学級担任と学年部の先生方が文字通り一つになった作品は見事なことばとなった。活動のねらいはほぼ達成され、題材開発の試みは成功したと評価している。
 この活動は、本校の同和教育研究の一環として取り組まれたものであり、協力することや所属感の育成を主たるねらいとした。しかし、実質的には美術そのものの表現活動であったわけである。その意味で美術科の教科性について改めて考えさせられた実践であった。
                                   
                    
9 活動の実際   
 本活動題材のねらいは、学級集団の凝集性を高める仲間づくりの面から、一人一人の考えをメッセージとして素直に表現させ、それをお互いに交換し合って所属意識を高めようすることである。また、生徒のパズルゲーム感覚を重視し、そのメッセージを16ピースパズルの5種類の基本パーツの一つにレタリングさせ、それを組み立て学級及び学年の共同作品(パズルメッセージ)をつくり、一つのことを完成させた感動体験を育てることも目標としている。
 言わば、パズルを学級、学年づくりのモデルとしたわけである。一人一人の生徒がパズルの一片であり、それに書かれたメッセージであり、学級及び学年として様々な組み合わせのかたち(集団のあり方)が考えられるというわけである。
 全クラスに共通な指導の工夫としては、美術学習での伝達のためのデザイン作品(レタリング作品)を導入段階で数多く参考資料として提示したことである。また、生徒手帳の各ページに書かれていることわざをすべてまとめて参考資料として与えることとした。また、不真面目なメッセージはパズルゲームのルール違反として指導してきた。
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10 活動を終えて 
・生徒一人一人のメッセージは、資料として配られた生徒手帳の格言やことわざ、書物より直接引用したものや、日頃慣れ親しんでいる前進、根性、闘魂、挑戦などのことばが多かったが、それぞれの個性を感じさせるものだった。中には、創意のあふれる「45人集まりゃ文殊の知恵」というものもあって感心させられた。
 活動を終えての生徒の感想は、「みんなが、一つのことを目標にして努力することがよかった。また、みんなでやろうときめたことができたことも」、「一人でもグループからぬけたり、おくれたくすると一つのことができなくなるということ」、「2年生は、わりとまとまりのない学年と思われているけど、今回のパズル作りでは、みんないっしょうけんめいやり足並みがそろったと思う」Y君が、M君の作品を手伝ってあげた。私は、友達に“ここをどうやったらいい”ときかれた時に力をかすことができました」などである。本活動を通し、小さいものだが仲間としての心の結び付きの輪が確実に広がったのである。この学年の共同作品は、2ケ月近く理科室前の廊下に展示され、全校にアピールした。本活動のねらいは、ほぼ達成されたと評価している。(J中での実践)

この題材は、筆者の在任中の平成元〜4の実践の後、後任の方々に継続実践され「卒業学年パズルメッセージ」として、10年以上にわたって実践された。この写真は1997年に撮影。後任のM教諭、I教諭、O教諭にここで感謝申し上げたい。