堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材4 思いのまま、何でもありの表現活動

題材4 思いのまま、何でもありの表現活動

思いのまま、何でもありの表現活動

(1) 題材名「ことば遊びのイラストレーション」(2学年 1学期 10時間)
(2) 題材のねらい
 ことばによって突拍子もない、楽しい、おもしろい、おかしい、ほほえましいなど、独創的でユーモアのあるイメージをつくりだしてイラスト化し、そのことばとイラストの構成を工夫して詩画として表現する。
(3) 題材設定の意図
ア、子供の実態と教師の願い
 生徒は情報の渦の中で多様な感性を身に付けてきている。それら生徒の感性の現れをそのまま全てを認めることから表現活動を展開したい。
 眼高手低がますます進行している生徒の実態を踏まえ、ことばのもつ力に着目し、特にことば遊びの広がりの中からイメージ・発想を広げ造形表現への意欲付けを図りたい。遊びの精神を重視し主体的な表現活動を展開させたい。
イ、学習指導要領との関連
生徒の感性のよさを認め、自由な表現を楽しませ美術の素晴らしさに気づかせ、美術に親しみを持たせたい。一つのことば遊びのルールや方法に従って、内にあるイメージを掘り起こし表現につなげさせたい。全体として表現の選択幅を拡大し、漫画など多様な表現方法を認めることで生徒の主体性を重視したい。
(4)教え育てる内容
ア 目的・条件・ことば遊びのきまりにしたがって、自分の個性を生かしたユニークなことば遊びの作品をつくりだす。方法は50音によるアクロスティック(折り込みどどいつ)とし、ポスター的表現の詩やコピーをことば遊びの精神で発想豊かにつくりだす。
イ 構成  ・ことばと絵柄を美しく訴求力のあるすっきりとしたレイアウトで構成する。
ウ 配色  ・類似及び対照の配色の効果を生かす。
エ 構想  ・造形的に表現するため絵画的イメージ豊かなことば遊びの作品を創りだす。
        ことばの世界をより美しく効果的に表現することをめざし、試作で十分に構想を練る。
オ 材料用具・画用紙、ポスターカラー、面相筆、定規、コンパス、レタリング辞典等の素材や用具、資料を適切に生かし使用する。
カ 計画性  ・発想から構想、表現に至る過程に即した課題を順序正しく追求する。
キ 技術   ・辞典から直接文字をトレースしたりコピー機を使って拡大したりしてレ タリングの方法を工夫する
        自分の表現意図に応じて明朝体、ゴシック体のどちらかを選ぶ。
        身の回にある雑誌や漫画も参考例として自分の表現に生かす。
ク 知識   ・ことば遊びの多様性と表現の広がりを知る。ポスターや詩画等のウイットのある視覚的デザインの種類を知る。
ケ 発展性  ・造形表現における発想力の大切さに気付く。ウイットやユーモアの効用 について気付く。
(5) 学習の過程
ア、支援のポイント
①ことばによるイメージの自由自在な広がりの追究に重点を置いて支援・指導する。
②人を差別し傷つけること以外のいかなる表現をも許容することを確約し自由に表現させる。
イ、 ことば遊びの方法について
①「日本語の50音」の各行の5音によるアクロスチック
②折り込みとどいつ、数え歌、しりとり
③川柳、俳句、短歌調の標語風な表現
④回文、ダジャレ、ジョーク、早口ことば、語呂合わせ、定型詩、散文など何でもありで
 これらの例示の中から、主体的に表現方法を選択させる。歯切れの良いことばの響きとイメージの広がりを作り出すことを工夫させる。
ウ、ことば遊びの例示
谷川俊太郎のことばあそび
あさ
いすの
うえで
えらそうに
おっとせい

ながしに
にんじん
ぬすんだ
ねこが
のっている

② その他の参考例
・ のんだらのるな のるならのむな・
・ さかなやのおっさんが しんだ ぎょ
・ だんすがすんだ
・ ちるさくらのこるさくらもちるさくら
・ はくししゅくだいだいすき
・ あるみかんのうえにあるみかん
・ らくだはらくだ
・ ばったがふんばった

エ 作品例
①ことば遊び作品
さっぱり
している
すきんへあ
せっかく
そってもまたはえ

たからくじの
ちゅうせんあたり
ついに
てにしたぞ
とうきょうのとち

 生徒たちが日頃触れている情報や世相がことばの世界に素直に現れてくる。問題は、この次の造形的な表現の追求をどう工夫させるかである。

②完成作品
あそび1.jpg
学校生活への適応、学級や友人への配慮など素直な感性と願いが表現されている。
asobi6.jpg
中学生らしいユーモアと夢にあふれる大きな空間があり、楽しい作品となっています。
asobi 2.jpg
・家庭生活をテーマにして温かな家族の雰囲気を表現している。親子の愛情の世界、子供の素直な願いが表現されている。
J1.jpg
・人の心や世相の中の暴力への願望が素直に現れている。このように表現することで自分の心を見つめ、常識的な社会規範を確認している。
Asobi-71.jpg
・ダジャレと早口ことばが一緒になって、一つの魅力的なフレーズが出来上がっている。生徒の発想のよさが称賛される。
asobi3.jpg
・世相(バブルの時代)、ニュース、報道が直接的に反映している。ことばの面白さとともに絵柄の表現も工夫されており鑑賞者の笑いをそそる。
taka 1.jpg
大相撲で貴花田千代の富士を破って引退に追い込んだあの頃の作品。
1.jpg
言葉遊びの楽しさが伝わってくる作品です。
(6) 考察
ア、 反省
①生徒はことば作品の第一次案に固執しがちである。いくつかの案をもとに発想を更に広げたり深めようとする追求的な取組みがなされにくい。
②ことばの作品を決め、続いてイラスト化を図っていく段階で、イメージの形象化の方法や文字の配置などについて個に応じた構想や試作を充実させるきめ細かい支援が不足していた。
イ、評価
①ことば遊びでは多様な発想がみられ、生徒らしい遊び心やユーモアのある作品が多く生まれた。また、社会を風刺するなどの深みのある作品もかなり生まれた。
②造形的には追求不足の作品も多かったが楽しんで制作に取組んでくれた。ことば遊びによる何でもありのイメージの広がりは魅力と可能性に満ちており、題材設定の意図はほぼ実現された。
(Y中,J中での実践例)