堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

題材1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

ア、題材 名「Time Egg Capsule

イ、指導の目標
  卵のイメ-ジとタイムカプセルの構想を合体させ、中学生としての青春の足跡を記念するミニ・モニュマン(ミニ・タイムカプセル)をつくる。

ウ、領域、学年、時期、時数、材料、用具等 領域総合的、3年、9~12月、10時間
 紙塑粘土、空き瓶等

エ、題材設定の理由
 中学生、それは、可能性としての存在であり、名実ともに「卵」である。中学生を象徴するもの、それは「卵のイメ-ジ」である。
 つまり、中学時代の経験や思い出は未来に花咲くものである。楽しい、充実した思い出は永遠の宝であり、成長の糧となるものである。それは、「タイムカプセル」に託されたロマンのように、いつの日か青春の輝きをよみがえらせてくれるものである。
 このように、卵やタイムカプセルのイメ-ジには、生徒の想像及び創造力をかきたてる魅力に満ちた世界がある。それは、教師にとっても同じである。
 その二つの世界を合体させて、造形性追求の柱を加えて、美術科の題材にしたのが「タイムエッグカプセル」である。
 指導の時期は、青春をぶつけた大会や行事の大半が終了し、高校進学や将来への想いで具体的に考え悩ませられる時期、卒業への秒読みの始まる中学三年生の二学期に設定する。そして、中学生活における青春の思い出と未来へのメッセージをカプセルの収納物とする。次に、紙塑材でその外形を独創的にかたどって、美しい彩色をほどこしてデザインさせる。
オ、内容分析(教え、育てる要素)
(ア)目的・条件
 中学時代の足跡を未来へと発展させようとする題材の目的や意義、製作の条件を充分理解する。
(イ)構造   
カプセルという用途に合う空き瓶などを利用して容器をつくる。また、それを芯とする。
(ウ)配色   
自分の主題を的確に捉えて、意味と装飾が美しく結び合うように色や形、デザインを工夫する。色の象徴的機能を生かす。
(エ)構想   
主題をより美的、効果的に表現することをめざし独創的な構想を練る。各段階の造形及び主題的な課題に即して豊かに構想する。
(オ)材料・用具
紙塑材の特性を生かし、工夫してつくる。空き瓶等の材料や適切な用具を選んで使える。
(カ)計画性  
順序正しく製作活動に取り組む。各段階の学習課題にきちんと取り組む。
(キ)技術   
イメ-ジを抽象形で表わす方法。芯構造のつくり方。紙塑材の効果的な使い方。立体や球面に彩色する方法。ラッカーの取り扱い方。
(ク)知識   
卵に関する知識とイメ-ジ。タイムカプセルの概念。色、形の象徴性について。現代美術の表現
の多様性について。モニュマンについて。シンボルについて。ポップアートについて。
(ケ)今後への発展
中学時代の思い出や作品を大切にする態度。未来を志向する力。モニュマンという視点から美術作品(彫刻など)を鑑賞する力。
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カ、指導の工夫(構想していく過程を重視して)
①学習過程の各段階に沿ってきめの細かい課題構成をする。
②記念碑などの作品鑑賞を通して「記念するものをつくりたい」という人間の願望を感じ取らせ、学習への意欲を持たせる。
③自分の主題を的確に捉えさせ、それにふさわしい収納物をつくらせる。
④卵やタイムカプセルのイメージの広がりを捉え、主体的な発想のもとに独創的な構想が築かれるように援助する。
⑤外形のデザイン及び表面の装飾は、生徒の今日的な感覚を大切にして工夫させる。
カ、指導過程(課題構成)
課題1 「記念」ということばの意味を調べ、記念ということばがつく熟語を20個以上書く。
課題2 記念するためにつくり、あらわされたもの(モニュメント)が古今東西、世界各地にみられる。その実例をあげる。
課題3 教科書の彫刻、モニュメント的作品を鑑賞して感想をまとめる。
課題4 タイムカプセルは、どのような意図からつくられるものか、実例から考えてみる。
       (課題1から課題4で1時)
課題5 「卵」に関することを、辞典などを手がかりにして調べる。
   (1)生物学的な意味・内容
   (2)ことばとしての意味・用法
   (3) 生活との結び付き
課題6 卵に関するイメ-ジを広げるために、次のことについて調べ説明する。
   (1)コロンブスの卵
   (2)Easter Egg
   (3)中学生は、金の卵である。
   (4)君と僕とは卵の仲
       (課題5から課題6で1時)
課題7 ある日のこと、「あなたは、卵を生んでしまいました。」(現実には起こり得ないことですが、イメ-ジを働かせてその後の「卵」の物語を書く。)
課題8 課題7とは逆の発想で、もしもあなたに「卵が生める」なら、どんな卵を生んでみたいですか。
課題9 卵のイメ-ジとタイムカプセルの考え方やイメ-ジに共通するものがあると思われる。それを、自分なりにまとめる。
課題10 あなたの中学時代を記念するものはなんですか。それらを書き出してみる。
  (課題7から課題10までは家庭学習課題)
課題11 自分の中学時代を記念するタイムカプセルをつくるために収納物をつくる。(クラスの仲間でお互いにメッセージを交換し合ったりする)  ( 1時)
課題12 自分のタイムカプセルにテーマ、題名をつける。その理由もまとめる。

課題13 収納物をまとめ、カプセルに納める。                (1時)

課題14 カプセルの外形をユニークにデザインし、紙塑材を使って美しい形をつくり出す。         (2時)
課題15 乾燥させたら、整形しながら彩色の構想を立てる。 (1時)

課題16 彩色を美しくほどこし、ラッカーで仕上げをする。(2時)

課題17 お互いの作品を鑑賞し合い、学習の全過程を通しての感想をまとめ自己評価をする。
(1時)

終わりに
課題10が終わると、生徒一人一人が、それぞれの制作意図をもとに収納づくりを始める。お互いに未来へのメッセージやサインを交換しあったり、して友情を確かめ合う活動が展開する。造形性の追求の面から課題14にあて指導を工夫する。イメージと形象の多様な関係を押さえた参考資料を重視した。そのような働き掛けから生徒らしい発想が開かれ、多様な作品が生まれてくる。
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完成された作品を見ると、一つ一つの作品が何ものにも増してその生徒自身を雄弁に語ってくれることが多い。その意味で指導が楽しみな題材である。一人一人の独創的な作品、つくる喜びを深く味わわせることが、また生徒の活動性が十分に発揮される題材である。 名称未設定 3.jpg この作品(カプセル)は、何年後かの未来に開けられる。その時、この作品の外形は破壊されるわけであるが、中に納められた中学時代の青春のメッセージが鮮やかに蘇り、この作品が最終的な完成となるわけである。