堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

巻頭言 [挨拶] 私の美術教育の歩み(題材集)

巻頭言 [挨拶]

私の美術教育の歩み

1 はじめに 
私は、第二次世界大戦中の受胎で、1946年2月生まれです。大学入学は新潟国体、新潟地震、そして東京オリンピックが開催された1964年です。そのような巡り合わせから、戦後の高度経済成長と新左翼運動の活発化など1970年の大阪万博に向けて高揚していく物質と精神が激動した時代に自己形成をしてきたことになります。
また、その時代精神に触発されて、1967年10月の新潟現代美術家集団GUNの結成に参加し、前衛的な表現活動を追求し始めました。その活動の過程で新しい美術表現を生成させる体験を積み上げたことが、その後の私の美術教育の原動力となりました。
私は1968年4月に公立中学校に教員として採用されました。その最初から私なりの表現理念による美術教育に託す願いの実現、美術科のあるべき姿、教科性の確立をめざし、オリジナル性のある題材開発に熱意を注いできました。
 美術科は他教科に比べて、目標・内容と題材(教材)との関係が開放的です。教科書教材に替わる題材開発の可能性はまさに多様で自由自在です。中学校入学から卒業までの3年間の活発な表現活動を願って、いわば汎題材主義で題材開発の試みを続けてきたわけです。そして、そのようなオリジナル的な題材で指導計画の大半を構成することを美術教師としての夢としてきました。
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 教諭25年、教頭5年、校長8年の計38年間、その時々の指導要領の改訂のキーワードを捉えながら、題材開発や自作備品の制作に傾注してきたわけです。この間の私の美術教育実践レポート、小論文などをまとめて、後輩達への贈り物にしたいと考えます。私が開発、工夫してきた実践例を紹介することで、同じように指導の工夫をしている全国の仲間達に連帯の挨拶といたします。それが美術教育の発展に寄与できればと考えています。

2 今日的課題と実践の視点
基礎学力を定着させること、個性を生かす教育や自己教育力等を身に付けさせることは不易の教育課題です。その成否は、結局は教師の指導の在り方次第です。
美術科は、時間数の削減に伴い存在自体が危ぶまれていると言えます。現実として美術科の教諭数は激減しました。
情報化や高度工業化の進行と知的学力優位の受験体制の中で、生徒は眼高手低で感性も刹那的でバーチャル化し、目と手と心を駆使する造形表現に意欲・関心、やる気を失う者も増える一方です。
教科の表現と鑑賞の領域に含まれる内容は拡大しましたが、その中で何を取り上げるかで、多極・多様化の一途を辿っています。それらの実態に失望したり自閉したりせず、造形表現への意欲を育み、発想力の向上や表現の楽しさを深く味わわせることが肝要です。教科の存在の意義をしっかりとふまえ、題材開発や学習過程の工夫で造形学習の質の充実を図る指導方法と指導計画の改善が焦眉の課題です。

本書では、これまでの題材開発の中で校内研修、誌上発表、指定研究、官制研修、組合研修など様々な機会をとらえて発表してきた歩みの中から私自身の自己評価の高いものを取り上げます。それらによって、指導要領の基本理念である「学校の創意工夫を生かす」ことや「体験的な活動の重視」、また、美術編 第3 指導計画の作成と内容の取り扱いにおけるニューワードである「共同で行う創造活動」のあり方についての提案ともしたいと考えます。
個々の題材開発の視点についてはそれぞれの実践紹介で詳しく述べていますが、共通する視点を抽出し、一般化に向けて次の7つに跡付けました。

(1) 思春期の生徒の感性との響き合いを重視する。
情報化、高度工業化の社会に生きる生徒の多様な感性、興味・関心を惹き付ける魅力ある題材とする。

(2) 基礎的・基本的事項等の指導内容を押さえる。
 教え育てるべき主題性、造形性等の基礎的・基本的事項を明らかにする。そして、指導過程のそれぞれの分節に適切な学習課題の設定を図る。

(3) 個人の表現題材にとどまらず、グループや学級、学年、そして全校での共同制作等様々な造形活動のダイナミックなあり方を追究する。
一人で行うことと違った表現の喜び、大きな感動体験を培う共同制作の題材を開発する。

(4) 題材開発に伴う仰々しいイメ-ジにとらわれず、時流の一つである軽薄短小の扱いやすいイメ-ジを重視する。

(5) 学校や地域の特色を生かし、また、領域概念や表現形式にとらわれない発想で題材を開発する。
また、誰もが、どこの学校でも、何時でも取り組めるように、一般化への筋道をはっきりとさせた題材とする。

(6) 適切な費用負担と誰もが持っている用具で大きな感動を生み出せるように、材料と方法を工夫する。

(7) 現代美術表現の教育的意義に鑑み、その特質の一部を題材に取り入れる。

そして、実際の指導に当っては、一人一人のもつ発想力や造形表現への意欲の持続と向上を願って、構想していく過程を重視してきました。以下、実践例により述べていきます。

題材1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

題材1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

1 思春期の生徒の心情にしみいる題材

ア、題材 名「Time Egg Capsule

イ、指導の目標
  卵のイメ-ジとタイムカプセルの構想を合体させ、中学生としての青春の足跡を記念するミニ・モニュマン(ミニ・タイムカプセル)をつくる。

ウ、領域、学年、時期、時数、材料、用具等 領域総合的、3年、9~12月、10時間
 紙塑粘土、空き瓶等

エ、題材設定の理由
 中学生、それは、可能性としての存在であり、名実ともに「卵」である。中学生を象徴するもの、それは「卵のイメ-ジ」である。
 つまり、中学時代の経験や思い出は未来に花咲くものである。楽しい、充実した思い出は永遠の宝であり、成長の糧となるものである。それは、「タイムカプセル」に託されたロマンのように、いつの日か青春の輝きをよみがえらせてくれるものである。
 このように、卵やタイムカプセルのイメ-ジには、生徒の想像及び創造力をかきたてる魅力に満ちた世界がある。それは、教師にとっても同じである。
 その二つの世界を合体させて、造形性追求の柱を加えて、美術科の題材にしたのが「タイムエッグカプセル」である。
 指導の時期は、青春をぶつけた大会や行事の大半が終了し、高校進学や将来への想いで具体的に考え悩ませられる時期、卒業への秒読みの始まる中学三年生の二学期に設定する。そして、中学生活における青春の思い出と未来へのメッセージをカプセルの収納物とする。次に、紙塑材でその外形を独創的にかたどって、美しい彩色をほどこしてデザインさせる。
オ、内容分析(教え、育てる要素)
(ア)目的・条件
 中学時代の足跡を未来へと発展させようとする題材の目的や意義、製作の条件を充分理解する。
(イ)構造   
カプセルという用途に合う空き瓶などを利用して容器をつくる。また、それを芯とする。
(ウ)配色   
自分の主題を的確に捉えて、意味と装飾が美しく結び合うように色や形、デザインを工夫する。色の象徴的機能を生かす。
(エ)構想   
主題をより美的、効果的に表現することをめざし独創的な構想を練る。各段階の造形及び主題的な課題に即して豊かに構想する。
(オ)材料・用具
紙塑材の特性を生かし、工夫してつくる。空き瓶等の材料や適切な用具を選んで使える。
(カ)計画性  
順序正しく製作活動に取り組む。各段階の学習課題にきちんと取り組む。
(キ)技術   
イメ-ジを抽象形で表わす方法。芯構造のつくり方。紙塑材の効果的な使い方。立体や球面に彩色する方法。ラッカーの取り扱い方。
(ク)知識   
卵に関する知識とイメ-ジ。タイムカプセルの概念。色、形の象徴性について。現代美術の表現
の多様性について。モニュマンについて。シンボルについて。ポップアートについて。
(ケ)今後への発展
中学時代の思い出や作品を大切にする態度。未来を志向する力。モニュマンという視点から美術作品(彫刻など)を鑑賞する力。
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カ、指導の工夫(構想していく過程を重視して)
①学習過程の各段階に沿ってきめの細かい課題構成をする。
②記念碑などの作品鑑賞を通して「記念するものをつくりたい」という人間の願望を感じ取らせ、学習への意欲を持たせる。
③自分の主題を的確に捉えさせ、それにふさわしい収納物をつくらせる。
④卵やタイムカプセルのイメージの広がりを捉え、主体的な発想のもとに独創的な構想が築かれるように援助する。
⑤外形のデザイン及び表面の装飾は、生徒の今日的な感覚を大切にして工夫させる。
カ、指導過程(課題構成)
課題1 「記念」ということばの意味を調べ、記念ということばがつく熟語を20個以上書く。
課題2 記念するためにつくり、あらわされたもの(モニュメント)が古今東西、世界各地にみられる。その実例をあげる。
課題3 教科書の彫刻、モニュメント的作品を鑑賞して感想をまとめる。
課題4 タイムカプセルは、どのような意図からつくられるものか、実例から考えてみる。
       (課題1から課題4で1時)
課題5 「卵」に関することを、辞典などを手がかりにして調べる。
   (1)生物学的な意味・内容
   (2)ことばとしての意味・用法
   (3) 生活との結び付き
課題6 卵に関するイメ-ジを広げるために、次のことについて調べ説明する。
   (1)コロンブスの卵
   (2)Easter Egg
   (3)中学生は、金の卵である。
   (4)君と僕とは卵の仲
       (課題5から課題6で1時)
課題7 ある日のこと、「あなたは、卵を生んでしまいました。」(現実には起こり得ないことですが、イメ-ジを働かせてその後の「卵」の物語を書く。)
課題8 課題7とは逆の発想で、もしもあなたに「卵が生める」なら、どんな卵を生んでみたいですか。
課題9 卵のイメ-ジとタイムカプセルの考え方やイメ-ジに共通するものがあると思われる。それを、自分なりにまとめる。
課題10 あなたの中学時代を記念するものはなんですか。それらを書き出してみる。
  (課題7から課題10までは家庭学習課題)
課題11 自分の中学時代を記念するタイムカプセルをつくるために収納物をつくる。(クラスの仲間でお互いにメッセージを交換し合ったりする)  ( 1時)
課題12 自分のタイムカプセルにテーマ、題名をつける。その理由もまとめる。

課題13 収納物をまとめ、カプセルに納める。                (1時)

課題14 カプセルの外形をユニークにデザインし、紙塑材を使って美しい形をつくり出す。         (2時)
課題15 乾燥させたら、整形しながら彩色の構想を立てる。 (1時)

課題16 彩色を美しくほどこし、ラッカーで仕上げをする。(2時)

課題17 お互いの作品を鑑賞し合い、学習の全過程を通しての感想をまとめ自己評価をする。
(1時)

終わりに
課題10が終わると、生徒一人一人が、それぞれの制作意図をもとに収納づくりを始める。お互いに未来へのメッセージやサインを交換しあったり、して友情を確かめ合う活動が展開する。造形性の追求の面から課題14にあて指導を工夫する。イメージと形象の多様な関係を押さえた参考資料を重視した。そのような働き掛けから生徒らしい発想が開かれ、多様な作品が生まれてくる。
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完成された作品を見ると、一つ一つの作品が何ものにも増してその生徒自身を雄弁に語ってくれることが多い。その意味で指導が楽しみな題材である。一人一人の独創的な作品、つくる喜びを深く味わわせることが、また生徒の活動性が十分に発揮される題材である。 名称未設定 3.jpg この作品(カプセル)は、何年後かの未来に開けられる。その時、この作品の外形は破壊されるわけであるが、中に納められた中学時代の青春のメッセージが鮮やかに蘇り、この作品が最終的な完成となるわけである。

題材2 自然や地域を見つめ直す想像画

題材2 自然や地域を見つめ直す想像画

2 自然や地域を見つめ直す想像画

ア、題材 名「校歌の世界から」

イ、指導の目標
 校歌の鑑賞を通して、地域の自然風土の恵みや人々の愛などの、私達を教え育ててくれている母なる世界のイメ-ジをとらえ、それを発展させて、広く深い光に満ちた想像画を描く。
ウ、領域、学年、時期、時数、材料、用具等 
想像画、3年、4月~5月、10時間
エ、題材設定の理由
 校歌に歌われている世界は、まさに普遍的・本質的な自然観、人間観、教育の理想であり、私達に語りかける意味は大きい。
 古来、私達は海や山や川、樹木や巨石、水や火などの自然を信仰の対象としたり、精神の拠り所としてきた。自然の営みとともに生活し多くの知恵を生み出してきた。
山とは、自然の中で最も興味あるもの、最も剛健なるもの、最も高潔なるもの、最も神聖なるものである。(註1)また、川(水)は上善のたとえとされ、雪は新潟越後人の精神風土を形作ってきた。
 地域の自然の豊かさや恵みへの感謝、自然と人間の根源的な結び付きのすがたや教育と人間の理想をうたう校歌の詩を媒介として想像力を働かせ、自分を温かく包む母なる世界のイメ-ジをとらえさせたい。
 そして、単なる幻想ではなく、生きている人間としての主体的な主題追究として広い、大きい、深い、温かい光に満ちたイメ-ジを描かせたいのである。そのような造形表現活動を通し、思春期のための哲学への目も育てたい。
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オ、内容分析(教え、育てる要素)
(ア) 美の把握
 校歌の歌詞やメロデーに触発された自然美、人間愛、理想などの広大な美しさ。    
(イ) 主題   
鑑賞やことばによるデッサンを通して、主体的に主題を決める。          
(ウ) 対象の見方、表し方
 ことば・イメ-ジ・象徴等の関係について学習する。色や形、自然物の象徴的機能から対象の見方を深め、表し方を工夫する。
(エ) 表現意図に応じた工夫
  主題をより美的、効果的に表現することをめざし、単純化、省略、強調、抽象、具象などの表現の方法を選ぶ。        
(オ)材料・用具
 水彩表現の基本にもとづき、材料や用具を適切に使う。       
(カ)計画性  
各段階の学習課題にきちんと取り組む。構想の段階を大事にする。
(キ)技術   
 イメ-ジ空間の表現方法
(ク)知識   
 山や川などの自然物の象徴的意味。寓意や比喩的表現方法、シャガール、ダリ、タンギー、キリコ、エルンストなどのイメ-ジ表現。仏画山水画などの表現の特色。
(ケ)今後への発展
 自己理解の進展、地域の再発見、道徳学習
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カ、指導過程(課題構成)
課題1 校歌を鑑賞し、その意味の世界の深さを捉え、感想文にまとめる。(1時)
課題2 感想の中で一番印象深かったことを   もとに自分の想像を働かせてイメ-ジの世界を書き広げる。ことばによるデッサンで感動を掘り下げる。 (1時)
課題3 課題2で描かれたイメ-ジのスケッチを試み構想を練り上げていく。(1時)
課題4 構図を工夫し、配色の計画を立て画面の構成要素、ディテールの微修正をするなどして構想をまとめる。(1時)
課題5 構想に基づき線描し、水彩絵の具の特性を生かした着彩を工夫し主題の追究を深める。色の調和、重色やタッチの効果を生かし、主題の明確な美しい作品を完成させる。(5時)
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課題7 相互に完成作品を鑑賞し、表現の喜びを味わうとともに、校歌によって触発されたイメ-ジ世界に改めて入りひたる。また、学習の全過程を通しての感想をまとめ自己評価をする。(1時)
キ、指導の工夫  
(ア) 想像画の学習は、既習経験の層は薄いので、各指導段階での課題を形式的に推し進めるのではなく、生徒の反応を確かめつつ、適切に噛み砕いて指導する。
(イ) 古今東西の代表的な想像画を多数鑑賞させることを通して、その表現の素晴らしさに気付かせ、自分の制作への意欲を持たせる。
(ウ) 校歌の一字一句の意味をしっかりととらえさせ、感想文を書かせることをもとに自分のイメ-ジの世界を構築させる。
(エ) 構想を練り上げていく過程で、着彩まで含めたアィデアスケッチや試作練習をさせ、
仕上げの段階でつまずいて失敗させないように留意する。

ク、反省評価 -省略-

(註1)日本風景論(上,下) 志賀重昂

題材3 中学入学直後の躍動するイメージを表す

題材3 中学入学直後の躍動するイメージを表す

3 中学入学直後の躍動するイメージを表す

題材名 「太陽と人間のデザイン」

1 目標 
                                      
 太陽の光を浴びて躍動する人間のイメ-ジを色と形の変化を生かして表現する。 

2 対象 中学一年(10時間-4~5月)デザイン

3 題材観

 太陽は、万物の母。太陽は、地球の営みを支配している。人間はもちろん、全ての生命あるものは太陽のエネルギーによって生きている。太陽は、絶対者である。太陽は、ありがたいものである。太陽は、私たちに生きる希望と勇気を与えてくれる。太陽のイメ-ジは宇宙的な広がりを持っている。私たちは、太陽から学ぶことを忘れてはならない。太陽を知ることは、人間を知ることであり、己自身を知ることである。太陽について語ることは、その人の思想を語ることである。
 宇宙の中の太陽系。そして、太陽を父と母とするわが地球。地球上の一生物としての人間。人間の心の中の太陽。ことば、意味、シンボルとしての太陽。太陽のイメ-ジは果てしなく広がっていく。太陽のイメ-ジの広がりを捉えさせる中で、あこがれの中学校入学直後の生徒の心に新しい太陽を植え付けたい。太陽をモチーフとして、光のイメ-ジをデザインさせ、またその光の恵みを受けて躍動している人間や生物のイメ-ジをデザインさせたい。放射状の構成による形の大小の変化のさせ方や暖色を中心としたグラデーション等の配色効果や人間や生物の形の単純化の表現を工夫させたい。
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4 題材のイメ-ジ地図(教え育てる内容の分析)

(1) 太陽の科学的イメ-ジ

直径は地球の109倍(140万KM)、重さは33万3千倍、表面温度6千度、黒点 原子核融合反応、恒星、皆既日食、コロナ(10万度)、太陽風(毎秒1000KM)、太陽系、光球、光年、地球との距離1億4966万4千900km、彩層、紅炎、銀河系、太陽時、日時計、光エネルギー、太陽熱、寿命は約100億年

(2) 太陽の神話的イメ-ジ(象徴性)

太陽神、日神、アポロン天照大神、全知全能、不滅不死、日光菩薩、情熱、力、中心、英雄など

(3) 材料・技法からのイメ-ジ

円、同心円、放射形、大小の変化、暖色、グラデーション、プログレッション、色の感情、形の感情、色の調和、配置、構成、レイアウト、リズム、バランス、ハーモニー、形の単純化など

(4) 太陽の一般的イメ-ジ

朝の太陽、昼の太陽、夕方の太陽、朝やけ、夕やけ、明るい、まぶしい、ぽかぽか、じりじり、さんさん、かんかん、季節の太陽など

(5) 人間(中学生)の躍動のイメ-ジ

早く、高く、強く、運動する、スポーツする、走る、跳ぶ、打つ、投げる、シュートする、伸びる、ジャンプする、立ち向かう、手を取り合う、肩を組む、両手を広げる、成長する、ガッツポーズ、ヤッターポーズなど

5 指導過程(課題構成)

第一段階(Image過程)

課題1 太陽をテーマに詩か文章を書く。               (1時)

第二段階(Motif過程)

課題2 太陽の感じを鉛筆の明暗の調子生かして表現し、それに題名を付けてみる。
                                  (1/2時)
課題3 課題2で表わされたものを、コンパスと定規を生かしてすっきりとした形で 表現し直し、また題名を付けてみる。              (1/2時)

課題4 人間の躍動しているイメ-ジを単純化して表してみる。      (1時)
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第三段階(Transformation, Technique過程)

課題5 課題2、3 、4で試みたことや気付いたことをもとに、「太陽と人間(中学   生としての自分達)」をテーマにした自分の創作の構想をはっきりさせる。
                                  (1時)
課題6 自分の表わしたい「太陽と人間」のイメ-ジを色と形の変化を生かして表現   する。                            (6時)

第四段階(Space, Sentiment過程)

課題7 鑑賞、反省、自己評価など。(1時)
          
6 本題材の指導のポイント

(1) 中学校入学して直後の希望に満ちている時期の題材にふさわしく、これからの自分の活躍や成長への想いを太陽によって象徴される大きな広がりの世界でおおらかに伸び伸びとイメージさせること。

(2) 題材に内包されるイメ-ジは捉え易いものであるが、それを表現する過程では彩色の段階で停滞したり、つまずいたり、意欲を失いがちである。そのため、色の塗り方やグラデーションの技法について丁寧に指導する必要がある。

(3) 太陽の光を浴びながら躍動しているイメ-ジは、全身的感覚で捉えるイメ-ジである。皮膚の熱感覚に訴えるなどして、類似や対照の配色効果を工夫させ、明るく伸び伸びとし、生きる喜びの表現のある作品に仕上げさせたい。
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題材4 思いのまま、何でもありの表現活動

題材4 思いのまま、何でもありの表現活動

思いのまま、何でもありの表現活動

(1) 題材名「ことば遊びのイラストレーション」(2学年 1学期 10時間)
(2) 題材のねらい
 ことばによって突拍子もない、楽しい、おもしろい、おかしい、ほほえましいなど、独創的でユーモアのあるイメージをつくりだしてイラスト化し、そのことばとイラストの構成を工夫して詩画として表現する。
(3) 題材設定の意図
ア、子供の実態と教師の願い
 生徒は情報の渦の中で多様な感性を身に付けてきている。それら生徒の感性の現れをそのまま全てを認めることから表現活動を展開したい。
 眼高手低がますます進行している生徒の実態を踏まえ、ことばのもつ力に着目し、特にことば遊びの広がりの中からイメージ・発想を広げ造形表現への意欲付けを図りたい。遊びの精神を重視し主体的な表現活動を展開させたい。
イ、学習指導要領との関連
生徒の感性のよさを認め、自由な表現を楽しませ美術の素晴らしさに気づかせ、美術に親しみを持たせたい。一つのことば遊びのルールや方法に従って、内にあるイメージを掘り起こし表現につなげさせたい。全体として表現の選択幅を拡大し、漫画など多様な表現方法を認めることで生徒の主体性を重視したい。
(4)教え育てる内容
ア 目的・条件・ことば遊びのきまりにしたがって、自分の個性を生かしたユニークなことば遊びの作品をつくりだす。方法は50音によるアクロスティック(折り込みどどいつ)とし、ポスター的表現の詩やコピーをことば遊びの精神で発想豊かにつくりだす。
イ 構成  ・ことばと絵柄を美しく訴求力のあるすっきりとしたレイアウトで構成する。
ウ 配色  ・類似及び対照の配色の効果を生かす。
エ 構想  ・造形的に表現するため絵画的イメージ豊かなことば遊びの作品を創りだす。
        ことばの世界をより美しく効果的に表現することをめざし、試作で十分に構想を練る。
オ 材料用具・画用紙、ポスターカラー、面相筆、定規、コンパス、レタリング辞典等の素材や用具、資料を適切に生かし使用する。
カ 計画性  ・発想から構想、表現に至る過程に即した課題を順序正しく追求する。
キ 技術   ・辞典から直接文字をトレースしたりコピー機を使って拡大したりしてレ タリングの方法を工夫する
        自分の表現意図に応じて明朝体、ゴシック体のどちらかを選ぶ。
        身の回にある雑誌や漫画も参考例として自分の表現に生かす。
ク 知識   ・ことば遊びの多様性と表現の広がりを知る。ポスターや詩画等のウイットのある視覚的デザインの種類を知る。
ケ 発展性  ・造形表現における発想力の大切さに気付く。ウイットやユーモアの効用 について気付く。
(5) 学習の過程
ア、支援のポイント
①ことばによるイメージの自由自在な広がりの追究に重点を置いて支援・指導する。
②人を差別し傷つけること以外のいかなる表現をも許容することを確約し自由に表現させる。
イ、 ことば遊びの方法について
①「日本語の50音」の各行の5音によるアクロスチック
②折り込みとどいつ、数え歌、しりとり
③川柳、俳句、短歌調の標語風な表現
④回文、ダジャレ、ジョーク、早口ことば、語呂合わせ、定型詩、散文など何でもありで
 これらの例示の中から、主体的に表現方法を選択させる。歯切れの良いことばの響きとイメージの広がりを作り出すことを工夫させる。
ウ、ことば遊びの例示
谷川俊太郎のことばあそび
あさ
いすの
うえで
えらそうに
おっとせい

ながしに
にんじん
ぬすんだ
ねこが
のっている

② その他の参考例
・ のんだらのるな のるならのむな・
・ さかなやのおっさんが しんだ ぎょ
・ だんすがすんだ
・ ちるさくらのこるさくらもちるさくら
・ はくししゅくだいだいすき
・ あるみかんのうえにあるみかん
・ らくだはらくだ
・ ばったがふんばった

エ 作品例
①ことば遊び作品
さっぱり
している
すきんへあ
せっかく
そってもまたはえ

たからくじの
ちゅうせんあたり
ついに
てにしたぞ
とうきょうのとち

 生徒たちが日頃触れている情報や世相がことばの世界に素直に現れてくる。問題は、この次の造形的な表現の追求をどう工夫させるかである。

②完成作品
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学校生活への適応、学級や友人への配慮など素直な感性と願いが表現されている。
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中学生らしいユーモアと夢にあふれる大きな空間があり、楽しい作品となっています。
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・家庭生活をテーマにして温かな家族の雰囲気を表現している。親子の愛情の世界、子供の素直な願いが表現されている。
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・人の心や世相の中の暴力への願望が素直に現れている。このように表現することで自分の心を見つめ、常識的な社会規範を確認している。
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・ダジャレと早口ことばが一緒になって、一つの魅力的なフレーズが出来上がっている。生徒の発想のよさが称賛される。
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・世相(バブルの時代)、ニュース、報道が直接的に反映している。ことばの面白さとともに絵柄の表現も工夫されており鑑賞者の笑いをそそる。
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大相撲で貴花田千代の富士を破って引退に追い込んだあの頃の作品。
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言葉遊びの楽しさが伝わってくる作品です。
(6) 考察
ア、 反省
①生徒はことば作品の第一次案に固執しがちである。いくつかの案をもとに発想を更に広げたり深めようとする追求的な取組みがなされにくい。
②ことばの作品を決め、続いてイラスト化を図っていく段階で、イメージの形象化の方法や文字の配置などについて個に応じた構想や試作を充実させるきめ細かい支援が不足していた。
イ、評価
①ことば遊びでは多様な発想がみられ、生徒らしい遊び心やユーモアのある作品が多く生まれた。また、社会を風刺するなどの深みのある作品もかなり生まれた。
②造形的には追求不足の作品も多かったが楽しんで制作に取組んでくれた。ことば遊びによる何でもありのイメージの広がりは魅力と可能性に満ちており、題材設定の意図はほぼ実現された。
(Y中,J中での実践例)

題材5 生徒等の心を飛ばす共同性を生かした題材

題材5 生徒等の心を飛ばす共同性を生かした題材

題材名-「軽熱気球の冒険」

実施学年-中2

表現形式-総合的な表現(立体造形とパ-フォ-マンス)

授業時数-10時間

指導の時期-2月~3月

指導の目標
 
・紙気球を飛ばすことの目的や条件を理解し、構想を練り、計画的に製作する。
・気球を飛ばし、気球と遊びながら、目的実現の喜びを深く味わう。

材料・用具

 薄葉紙、画用紙、厚紙、新聞紙、アラビアゴム糊、ラッカースプレー、はさみ、カッター


(1) 題材設定の理由

<気球のイメ-ジ・象徴性より>
 気球は、自由でおおらかな大空へのあこがれの産物。気球の動きは青春の姿に似ている。気球を飛ばすこと、それは夢を飛ばすこと。自分の心を飛ばすこと。気球を飛ばすこと、それは誰もが楽しいこと。

<教科の今日的課題より>
 偏差値優位の中学校の現実の中で、美術科の今日的課題の一つは偏差値では計れない感性的経験、美的衝動の燃焼を保証することである。
 それは、価値基準がはっきりし、評価し易い視覚美優位の基礎・基本的造形要素に依拠して指導するだけでは達成し得ないことである。そこでは、既成の領域概念や指導理念にとらわれない、言わば教科の構造に風穴を開ける考え方が必要になってくる。
 このような立場から、いまだことばならざる感性・体感重視の総合造形的学習を重視した題材の開発を考え、狭い机上と教室をはみだして活動していく本題材を設定した。

<生徒の心情に迫る必要性>
 物質文明の高度化や情報化社会の進展に伴う社会変動や逆理現象(例えば、情報の氾濫や自然破壊など)の渦中で、生徒の意欲や感性は多様化、拡散の一途をたどり、また、衰退してきている。週1~2時間の造形学習の場で、そのような生徒の心情をどのように捉え、惹き付け、表現させていったら良いのであろうか。生徒の心の拠点となり、同一化や感情移入の対象となるものをどのように掘り起こしていったら良いのであろうか。
 このような問い直しから、入学から卒業までの生徒の生成する心情の世界を、主として普遍的な意味での人間と自然との関係に比喩して、次のようにイメ-ジ化・シンボル化して捉えたい。

 1年
・ものごとが着実なリズムで成長発展していくイメ-ジ。
「シンボル-春、太陽の光、新芽の成長、自然の生命、芽吹き、緑の世界、眼の輝き、向日葵、微風、風車、ひよこ」
 2年
・躍動的、流動的、激動的なリズムで変化していくイメ-ジ。
「シンボル-激流、滝、水飛沫、洪水、嵐、炎、入道雲、雷、流星、火花、爆発、火山、波、台風、気流、カオス」
 3年
・宇宙的で広大、いろいろな要素が総合されてまとまっていくイメ-ジ。
「シンボル-山、大河、天の河、天地創造、道、礎、巣立ち、歴史、大海、神話、大樹、宇宙、宇宙卵、小宇宙、輪廻転生、タイムカプセル」
 以上のようなイメ-ジやシンボルをもとに、2年生の3学期の終りの生徒の心情を考えてみると、2年生のこの時期には、最上級の3年への進級直前のちょっぴり自由な、そして確かに心の内に希望や自信を見出したような解放感がある。そんなこの時期の生徒の心情に迫り、その解放感を造形として伸び伸びと表現させる題材を求め、本題材を開発し、設定した。
 つまり、この気球は、卒業式が終ってから終業式までの10日間くらいの間に完成させ飛ばさせるように計画する。そのような解放感の表現として気球を飛ばさせたい。

<地域性のある題材開発の必要性から>
 我が町では7年前に、地域起こしの施策として米山に連なる万葉集にもうたわれている名山尾神岳にハンググライダーの基地を誘致した。以来、春から秋への好天日には日本海側より吹き上げる上昇気流に乗って大空を鳥人達の舞うのが見られる。この大空への挑戦の夢を造形教育でかなえてくれる題材がほしいと考えた。
 また、雪国である我が新潟県の各地方の春を迎える習わしの一つとして、小千谷市に中国から伝わったという紙気球「ボコ」を飛ばす行事がある。この習わしは、現在春分の日をメインとした、本物の熱気球が飛び交う小千谷気球祭りに発展している。この春を迎える喜びの表現を題材にしようと考えた。

<エアーアートの造形性の概念より>
 気球を飛ばすことはエアーアートの一種である。気球の材料は、和紙の薄いものなど。それを使って、体積の大きい多面体や球体をつくる。そして、ガスバーナーを燃やした熱風を吹き入れて飛ばす。これは温度差による空気の浮力を利用した科学的造形である。
 少ない表面積でできるだけ大きな体積と美しい球体、安定感のある球体をつくり出すこと。材料の和紙がとても薄いので、のり付けやカラースプレーを使った彩色などの段階で作業手順などを工夫することにより造形性も充分に追求できる題材であると確信して設定した。

(2) 準備

(ア)・内容分析(教え、育てる要素)

ア 目的・条件
*空気の温度差による浮力を生かした科学的芸術。AIR ART 。空気の造形。視覚的デザイン
イ 構造   
*平面(和紙)を組み合わせて多面体、球体をつくる。
ウ 配色   
*単純で目立つ配色
エ 構想   
*構想を図や簡単な模型で確かめる。
オ 材料・用具
*薄い和紙またはウス用紙。セロハンテープ。のり、はさみ、カッター等の効果的な扱い方。
カ 計画性  
*試作から本製作へと計画的に取り組む。
キ 技術   
*多面体、球体のつくり方(関連一年数学空間図形)。LPガス燃焼の熱気の利用法
ク 知識   
*空気の性質、対流、浮力。気球の歴史と種類。空への憧れのロマン。気球のイメ-ジと象徴性。
ケ 発展性  
*立体構成。ソーラーバルーン。

(イ) 気球発射装置の製作
 陶芸ガス窯のバーナーと1メートル程度の煙突の筒などを使って温風を吹き込む装置をつくる。(卓上コンロを利用しても良い。)


(3) 導入
課題1 気球のイメ-ジをまとめる。(学習班をつくる)(1/2時)
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課題2 気球の形を考える。正多面体や地球儀、紙風船のつくりを参考にしながら気球の形のつくり方の手順を考える。(1/2時)
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課題3 実際の用紙を使って小形の気球を試作する。試作の気球を飛ばしてみる。(1時)
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(4) 展開
課題4 つくる気球の構想をまとめ、体積1立方mから4立方m位の気球をつくる。(各班全紙12枚程度)( 2時)
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型紙をつくって、用紙を切り、張り合わせる。
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課題5 ラッカースプレーを利用して気球にさまざまなデザインをこらし完成させる。( 2時)
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課題6 気球を飛ばして滞空時間を計測して競い合ったりして楽しむ。(1時)
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課題7 感想をまとめ、自己評価をする。(1時)
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(5) まとめ
 熱風を込めて「いち、に、さん、それー!ワァー!飛んだ!飛んだ!行け、行け!」「それ行け!飛べ!飛べ!やった!やったぞ!飛んだぞ!もっと高く行け!」と気球を飛ばす男子グループの歓声。 「すごく飛ぶんだね。やった!やった!」 とは女子グループの声。
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 早目に出来上った作品は体育館で卒業生を送る会での学年の出し物として、また、4月当初の生徒会の新入生歓迎のイベントとしても飛ばし、新3年生としての面目を示す機会ともなった。
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 屋外での飛行は、風の有無などの自然条件に大きく左右される。今年は適度な風がある好条件での飛行で、10分以上の滞空と水平距離で1キロ程の記録が出た。もちろん近くの林に落ちてしまって回収に行けない例もあった。
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校庭の欅に引っかかってしまったY中での例。屋外での飛行は立地条件によって制限されるので安全について十分に配慮する必要がある。
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(6) 評価
 本題材における評価の分析的観点は、前述の学習課題そのものである。総合的観点については題材設定の理由で述べた5つの観点の和をもって替えたい。ちなみに、本題材終了時に学習の反省として生徒に示した自己評価の観点は次の通りである。

1 気球づくりに協力して計画的に取り組むことができたか。
2 むだのない、理にかなった美しい形ができたか。
3 独創性のある装いのデザインができたか。
4 ラッカースプレーの扱い方、型紙の作り方はうまくできたか
5 気球はよく飛んだか
6 満足のいく作品であったか
 本報告の写真を撮影した公開授業のクラスでは、文章による感想、反省と共に5段階で評価を数値化をしてみた。どの項目も3.5以上の平均であった 。一つの班が、忠告を忘れて決定的な球体つくり方のミスで飛行させようとしたときに無理な浮力がかかって破れてしまい不満足な結果となった以外は概ね満足してくれた結果であった。
 尚、避けて通れない成績評価は、美術科では初めての班単位の競い合わせで行った。他の描画題材やデザイン題材では意欲を見せなかった男子ばかりの班ががんばり全ての観点でトップ成績をとる活躍を見せてくれたことが印象的であった。

(7) 実践を終えて

 今日、中学校教育は95%以上の高校進学体制のもとに管理化が進み、知育のみに分極化した画一的な競争主義が支配的である。その意味で我々の美術科は、中心教科には決してなり得ないわけである。しかし、美術科には根源的な意味で全ての教科の要素が包含されていると考えられる。そこには、眼と手と頭・心を分極化することなく一体化・総合化していく「人間としての全体的な活動」がある。
 発想から構想、そして表現へと結実していく造形表現活動の過程には真実や美を感じる、見る、触れる、実感する、直感する、直観する、想う、考える、表現する、つくり出す等々の人間的成長の根源的契機が数多く存在している。そのことに立って美術科は教科としての存在を強く主張し、そして造形表現の素晴らしさと喜びを全ての生徒に感受させて行かねばならないと考える。
 S子は飛んでいく気球を「大空をかけ上がって行く夢冒険」「大空に輝く天使のよう」と形容してくれた。スプレーの取り扱い方がまずいと床を汚したり、そのシンナーの匂いが非行をイメ-ジに結びついたり、また、造形性の追求の面からは指導改善すべき点の多い実践ではあった。しかし、この題材は生徒の心情とはがっちりと噛み合っていた。このような、いわばパーフォーマンスをも含めた広がりを持つ楽しい表現題材をもっと開発して他の学年にも取り入れていきたいと考えている。

 (美育文化 1986年6月号と1988年7月現代造形美術実践指導全集10 総合造形編で誌上発表)

題材6 全紙サイズで伸び伸びとポスター表現

題材6 全紙サイズで伸び伸びとポスター表現

全紙サイズで伸び伸びとポスター表現

(1)題材名「大きなポスター」(2年)
(2)目標 
 身の回りにある好きなキャラクターを利用し、自分の訴えたいことをポスターとして全紙サイズに自由に表現する。
(3)指導過程(6時間の課題構成)
課題1 
自分の好きなキャラクターを雑誌や漫画などの中から選び出し、訴えることばの構想を練る。
(1時)
課題2 
 訴えることばの文字の適切な配置を考えながら絵柄のキャラクターを全紙に大きく描き表す。
(1時)
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課題3 
 訴えることばを決め、絵柄との調和を求めてレタリングする。(2時)
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課題4 
 思いのままの彩色をほどこし作品を完成させる。(2時)
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課題5 
 作品を教室や校舎の適切な場所に貼り、実際に学校生活に生かし表現効果を検証する。
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(4)指導のポイント
 どのようなキャラクターを選ぼうと自由にさせる。ただし、作品として表現する内容は前向きのものとさせる。
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(5)指導を終えて
 全紙サイズの作品に取り組むのは初めての機会で、最初はとまどっていたが、大きく描くことの快感が伝わり、かえって意欲的に取り組んでくれた。制作場所は美術教室にはおさまらず廊下にはみだすなど数箇所に分かれた。その意味でも、通常の授業と違った解放感を感じて伸び伸びと制作してくれたようであった。
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(6)おわりに
 この2つ題材開発のコンセプトはいわばポップアートにある。さまざまな情報の渦中に生きている生徒の感覚をそのまま認めることから出発した題材である。
 題材開発の観点は先付けとして措定できるものが沢山あるが、あまり難しく考えると試みることもできない。失敗を恐れず大担に試みて、生徒の反応に学んで修正していく柔軟さが大切に思う。
 私は、生徒の気持になって「やってみたい。楽しそうだ。面白そうだ」という感覚を大事に題材開発をしてきているようである。また、言うまでもないことだが生徒が生き生きとして表現に取り組んだかどうかが勝負であると考えている。
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(J中で実践)