堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材2 自然や地域を見つめ直す想像画

題材2 自然や地域を見つめ直す想像画

2 自然や地域を見つめ直す想像画

ア、題材 名「校歌の世界から」

イ、指導の目標
 校歌の鑑賞を通して、地域の自然風土の恵みや人々の愛などの、私達を教え育ててくれている母なる世界のイメ-ジをとらえ、それを発展させて、広く深い光に満ちた想像画を描く。
ウ、領域、学年、時期、時数、材料、用具等 
想像画、3年、4月~5月、10時間
エ、題材設定の理由
 校歌に歌われている世界は、まさに普遍的・本質的な自然観、人間観、教育の理想であり、私達に語りかける意味は大きい。
 古来、私達は海や山や川、樹木や巨石、水や火などの自然を信仰の対象としたり、精神の拠り所としてきた。自然の営みとともに生活し多くの知恵を生み出してきた。
山とは、自然の中で最も興味あるもの、最も剛健なるもの、最も高潔なるもの、最も神聖なるものである。(註1)また、川(水)は上善のたとえとされ、雪は新潟越後人の精神風土を形作ってきた。
 地域の自然の豊かさや恵みへの感謝、自然と人間の根源的な結び付きのすがたや教育と人間の理想をうたう校歌の詩を媒介として想像力を働かせ、自分を温かく包む母なる世界のイメ-ジをとらえさせたい。
 そして、単なる幻想ではなく、生きている人間としての主体的な主題追究として広い、大きい、深い、温かい光に満ちたイメ-ジを描かせたいのである。そのような造形表現活動を通し、思春期のための哲学への目も育てたい。
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オ、内容分析(教え、育てる要素)
(ア) 美の把握
 校歌の歌詞やメロデーに触発された自然美、人間愛、理想などの広大な美しさ。    
(イ) 主題   
鑑賞やことばによるデッサンを通して、主体的に主題を決める。          
(ウ) 対象の見方、表し方
 ことば・イメ-ジ・象徴等の関係について学習する。色や形、自然物の象徴的機能から対象の見方を深め、表し方を工夫する。
(エ) 表現意図に応じた工夫
  主題をより美的、効果的に表現することをめざし、単純化、省略、強調、抽象、具象などの表現の方法を選ぶ。        
(オ)材料・用具
 水彩表現の基本にもとづき、材料や用具を適切に使う。       
(カ)計画性  
各段階の学習課題にきちんと取り組む。構想の段階を大事にする。
(キ)技術   
 イメ-ジ空間の表現方法
(ク)知識   
 山や川などの自然物の象徴的意味。寓意や比喩的表現方法、シャガール、ダリ、タンギー、キリコ、エルンストなどのイメ-ジ表現。仏画山水画などの表現の特色。
(ケ)今後への発展
 自己理解の進展、地域の再発見、道徳学習
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カ、指導過程(課題構成)
課題1 校歌を鑑賞し、その意味の世界の深さを捉え、感想文にまとめる。(1時)
課題2 感想の中で一番印象深かったことを   もとに自分の想像を働かせてイメ-ジの世界を書き広げる。ことばによるデッサンで感動を掘り下げる。 (1時)
課題3 課題2で描かれたイメ-ジのスケッチを試み構想を練り上げていく。(1時)
課題4 構図を工夫し、配色の計画を立て画面の構成要素、ディテールの微修正をするなどして構想をまとめる。(1時)
課題5 構想に基づき線描し、水彩絵の具の特性を生かした着彩を工夫し主題の追究を深める。色の調和、重色やタッチの効果を生かし、主題の明確な美しい作品を完成させる。(5時)
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課題7 相互に完成作品を鑑賞し、表現の喜びを味わうとともに、校歌によって触発されたイメ-ジ世界に改めて入りひたる。また、学習の全過程を通しての感想をまとめ自己評価をする。(1時)
キ、指導の工夫  
(ア) 想像画の学習は、既習経験の層は薄いので、各指導段階での課題を形式的に推し進めるのではなく、生徒の反応を確かめつつ、適切に噛み砕いて指導する。
(イ) 古今東西の代表的な想像画を多数鑑賞させることを通して、その表現の素晴らしさに気付かせ、自分の制作への意欲を持たせる。
(ウ) 校歌の一字一句の意味をしっかりととらえさせ、感想文を書かせることをもとに自分のイメ-ジの世界を構築させる。
(エ) 構想を練り上げていく過程で、着彩まで含めたアィデアスケッチや試作練習をさせ、
仕上げの段階でつまずいて失敗させないように留意する。

ク、反省評価 -省略-

(註1)日本風景論(上,下) 志賀重昂