堀川紀夫の美術教育実践

小中学校で合わせて38年間務めました。この間に積み上げてきた美術教育あるいは美術教育の良さを生かした実践例を全国の若い先生方に伝えたいと願って公開していきます。

題材10 エコロジー系の題材-2

題材10 エコロジー系の題材-2

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エコロジー系の題材

1 題材名 「広告物の変身」

2 目標
 新聞の折り込み広告等の印刷物から、色の部分を切り取り、それを利用して美しい平面構成作品をつくり出す。(対象 中学一年 (5時間)デザイン)

3 題材観
 新聞に折り込み広告は付き物であり、それは、私たちの消費生活と密着しているものである。しかし、その大半は眼を一度通されれば良い方で即刻捨てられてしまうのである。その宣伝にかかる費用は、商品の値段に含まれているわけであり、良く考えてみると一枚のちらしの中に社会の仕組が縮図となって見えて来るのである。
 そのちらし類を宣伝情報としてではなく、色面の集まりとして捉えてみると、最近の印刷技術の向上からきわめて美しい色面を多く見出すことができる。その色の部分だけを切り取れば、それは市販の色紙に代わる造形材料として充分に利用できるものである。そのような考え方から、新聞広告物を素材とする平面構成の題材を設定したい。素材とするものは雑誌の色面のある部分でもよいわけであり、とにかく捨てられる運命にある印刷物を選びたい。
 まず、素材となる宣伝のための印刷物体を沢山集めさせる。そして次に、その宣伝の目的、印刷技術、伝達表現の工夫、印刷メディアの特性、広告物と生活との結び付きなどを考えさせたい。そのことによって、広告物に対する習慣的な見方を問い、別の角度から光を当て、今まで気が付かなかった意味の世界に気付かせたい。また、その色の部分のみを切り取り、色紙として利用することによって、資源の再利用の大切さについて深く考えさせたい。
 尚、新聞を取っていない家はほとんどないと思われるわけだが、そのような生徒の存在も考慮し、協力グル-プを設定したい。お互いが不用な広告用紙の類を持ち寄って、必要なものを交換し合いながら色面を切り取らせたい。
 台紙は八つ切りの画用紙、用具はハサミを使用する。接着剤はアラビアゴム糊が一番である。
4 題材のイメ-ジ地図
(1) 広告物と生活との結び付きのイメ-ジ
スーパーマーケット、買い物、日用雑貨、安売り、大売り出し、宣伝
(2) 広告物の宣伝や製作技術のイメ-ジ
オフセット印刷凸版印刷グラビア印刷印刷機械、レタリング、レイアウト、宣伝文句、キヤッチフレーズ、印刷インク、版下、マーケットリサーチ
(3)色に関するイメ-ジ
色の感情、色の性質、色の三要素(色相、明度、彩度)、類似色、対照色、色の対比・進出・後退、色のトーン、色の調和
(4)平面構成に関するイメ-ジ
リズム、バランス、ハーモニー、グラデーション、リピテーション、ブログレッション、連続模様、単位形

(この「題材のイメ-ジ地図」は、題材の内容をより明確に捉えるために作成するものである。視点の取り方でもっと多様に展開できるが、このような教師側のイメ-ジ地図からいろいろなことばが選び出されて生徒の学習に供されるわけである。そして、教師のイメ-ジ地図に対応する生徒一人ひとりのイメ-ジ地図が形成されることによって追求すべき主題が決定されたり、学習や表現が深まっていくわけである。筆者にとつて、これを作成することが指導案の形式の改善の一つなのである。)
5 指導過程(課題構成)
* I過程
課題1 新聞広告を中心に、美しい色面の多い印刷物を沢山集める。(事前学習)
課題2 広告物をテーマに詩か文章を書く(1/2時)
(この課題は、生徒と広告物との結び付きの原体験を掘り起こすことをねらいとしている。日常的過ぎてことばにし憎いものであるので、箇条書きに書かせたり、詩のように書かせたりする。ブレーンストーミング的に授業を進め、生徒の色々な考え方が出てくるように援助する。)
* M過程
課題3 広告物から色の部分を切り取る(広告物の部分という性質をなくしてしまう。切り取られたものは色紙となるようにする。)(1/2時)
* T過程
課題4 切り取られた色紙を利用して、どのような平面デザインに構成するか構想を練る。(1時)

(素材としての切り取られた色紙は、あまり大きくないので、小さな単位形の繰り返しの美しさ等を発見させたい。造形秩序がはっきりと見て取れる作例を鑑賞させてもよい。試作品をつくらせるなど、計画的に製作していくための構想をきちんと練らせる。)
課題5 自分の構想の実現に向って、部分修正を加えながら造形操作する。  (2時)
(不足した色は、家から持って来たり、他のグループから譲ってもらったりする。途中での構想の修正によって作品が失敗作に終ることのないように、生徒一人ひとりを看取り援助していく。)
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* S過程
課題6 作品を完成させ、お互いの作品を鑑賞し合い、学んだこと、気付いたことなどをかみしめてまとめる。(1時)
6 本題材の指導のポイント
(1) 日常生活の中に習慣づいている広告物の常識を問い直す視点を大切にすること。
(2) 通常使用している市販の色紙材料を使用しないので、教材費が軽減されること。
(3) 捨てられるものを生かして使うという意味で、資源の再利用や省資源の問題について考えさせることのできる題材であること。
(4) もの(広告物)を解体し、別のものに再構築するという明確な造形思考のすじ道にのっとる表現学習であること。
(5) 単位形の繰り返しによる構成の美しさなど、構成学習の基礎基本を充分に育てることのできる内容があること。
(このテキストも題材9と同じ1986年に題材構想として書かれたれたものである。その後、1〜2時間程度のつなぎ題材として2〜3回の現場実践がある。)